政経資料:広島市平和宣言(HIROSHIMA PEACE DECLARATION):2017年:(日本語と英語)

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政経資料:広島市平和宣言(HIROSHIMA PEACE DECLARATION):2017年:(日本語と英語)

 

★長崎市平和宣言の方は→http://hamatakachan.uh-oh.jp/?p=14806(リンクをクリック)

政経資料:長崎市平和宣言(NAGASAKI PEACE DECLARATION):2017年:(日本語と英語)

 

 

平和宣言


皆さん、72年前の今日、8月6日8時15分、広島の空に「絶対悪」が放たれ、立ち昇ったきのこ雲の下で何が起こったかを思い浮かべてみませんか。鋭い閃光がピカーッと走り、凄まじい放射線と熱線。ドーンという地響きと爆風。真っ暗闇の後に現れた景色のそこかしこには、男女の区別もつかないほど黒く焼け焦げて散らばる多数の屍(しかばね)。その間をぬって、髪は縮れ真っ黒い顔をした人々が、焼けただれ裸同然で剝(は)がれた皮膚を垂らし、燃え広がる炎の中を水を求めてさまよう。目の前の川は死体で覆われ、河原は火傷(やけど)した半裸の人で足の踏み場もない。正に地獄です。「絶対悪」である原子爆弾は、きのこ雲の下で罪のない多くの人々に惨(むご)たらしい死をもたらしただけでなく、放射線障害や健康不安など心身に深い傷を残し、社会的な差別や偏見を生じさせ、辛うじて生き延びた人々の人生をも大きく歪めてしまいました。

このような地獄は、決して過去のものではありません。核兵器が存在し、その使用を仄(ほの)めかす為政者がいる限り、いつ何時、遭遇するかもしれないものであり、惨(むご)たらしい目に遭(あ)うのは、あなたかもしれません。

それ故、皆さんには是非とも、被爆者の声を聞いてもらいたいと思います。15歳だった被爆者は、「地獄図の中で亡くなっていった知人、友人のことを偲(しの)ぶと、今でも耐えられない気持ちになります。」と言います。そして、「一人一人が生かされていることの有難さを感じ、慈愛の心、尊敬の念を抱いて周りに接していくことが世界平和実現への一歩ではないでしょうか。」と私たちに問い掛けます。

また、17歳だった被爆者は、「地球が破滅しないよう、核保有国の指導者たちは、核抑止という概念にとらわれず、一刻も早く原水爆を廃絶し、後世の人たちにかけがえのない地球を残すよう誠心誠意努力してほしい。」と語っています。

皆さん、このような被爆者の体験に根差した「良心」への問い掛けと為政者に対する「誠実」な対応への要請を我々のものとし、世界の人々に広げ、そして次の世代に受け渡していこうではありませんか。

為政者の皆さんには、特に、互いに相違点を認め合い、その相違点を克服するための努力を「誠実」に行っていただきたい。また、そのためには、核兵器の非人道性についての認識を深めた上で、自国のことのみに専念して他国を無視することなく、共に生きるための世界をつくる責務があるということを自覚しておくことが重要です。

市民社会は、既に核兵器というものが自国の安全保障にとって何の役にも立たないということを知り尽くし、核を管理することの危うさに気付いてもいます。核兵器の使用は、一発の威力が72年前の数千倍にもなった今、敵対国のみならず自国をも含む全世界の人々を地獄へと突き落とす行為であり、人類として決して許されない行為です。そのような核兵器を保有することは、人類全体に危険を及ぼすための巨額な費用投入にすぎないと言って差し支えありません。

今や世界中からの訪問者が年間170万人を超える平和記念公園ですが、これからもできるだけ多くの人々が訪れ、被爆の実相を見て、被爆者の証言を聴いていただきたい。そして、きのこ雲の下で何が起こったかを知り、被爆者の核兵器廃絶への願いを受け止めた上で、世界中に「共感」の輪を広げていただきたい。特に、若い人たちには、広島を訪れ、非核大使として友情の輪を広げていただきたい。広島は、世界の人々がそのための交流をし、行動を始める場であり続けます。

その広島が会長都市となって世界の7,400を超える都市で構成する平和首長会議は、市民社会において世界中の為政者が、核兵器廃絶に向け、「良心」に基づき国家の枠を超えた「誠実」な対応を行えるような環境づくりを後押ししていきます。

今年7月、国連では、核保有国や核の傘の下にある国々を除く122か国の賛同を得て、核兵器禁止条約を採択し、核兵器廃絶に向かう明確な決意が示されました。こうした中、各国政府は、「核兵器のない世界」に向けた取組を更に前進させなければなりません。

特に、日本政府には、「日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓う。」と明記している日本国憲法が掲げる平和主義を体現するためにも、核兵器禁止条約の締結促進を目指して核保有国と非核保有国との橋渡しに本気で取り組んでいただきたい。また、平均年齢が81歳を超えた被爆者をはじめ、放射線の影響により心身に苦しみを抱える多くの人々に寄り添い、その支援策を一層充実するとともに、「黒い雨降雨地域」を拡大するよう強く求めます。

私たちは、原爆犠牲者の御霊に心からの哀悼の誠を捧げ、世界の人々と共に、「絶対悪」である核兵器の廃絶と世界恒久平和の実現に向けて力を尽くすことを誓います。

平成29年(2017年)8月6日

広島市長 松井 一實


PEACE DECLARATION


Friends, seventy-two years ago today, on August 6, at 8:15 a.m., absolute evil was unleashed in the sky over Hiroshima. Let’s imagine for a moment what happened under that roiling mushroom cloud. Pika—the penetrating flash, extreme radiation and heat. Don—the earth-shattering roar and blast. As the blackness lifts, the scenes emerging into view reveal countless scattered corpses charred beyond recognition even as man or woman. Stepping between the corpses, badly burned, nearly naked figures with blackened faces, singed hair, and tattered, dangling skin wander through spreading flames, looking for water. The rivers in front of you are filled with bodies; the riverbanks so crowded with burnt, half-naked victims you have no place to step. This is truly hell. Under that mushroom cloud, the absolutely evil atomic bomb brought gruesome death to vast numbers of innocent civilians and left those it didn’t kill with deep physical and emotional scars, including the aftereffects of radiation and endless health fears. Giving rise to social discrimination and prejudice, it devastated even the lives of those who managed to survive.
This hell is not a thing of the past. As long as nuclear weapons exist and policymakers threaten their use, their horror could leap into our present at any moment. You could find yourself suffering their cruelty.

This is why I ask everyone to listen to the voices of the hibakusha. A man who was 15 at the time says, “When I recall the friends and acquaintances I saw dying in those scenes of hell, I can barely endure the pain.” Then, appealing to us all, he asks, “To know the blessing of being alive, to treat everyone with compassion, love, and respect—are these not steps to world peace?”

Another hibakusha who was 17 says, “I ask the leaders of the nuclear-armed states to prevent the destruction of this planet by abandoning nuclear deterrence and abolishing immediately all atomic and hydrogen bombs. Then they must work wholeheartedly to preserve our irreplaceable Earth for future generations.”

Friends, this appeal to conscience and this demand that policymakers respond conscientiously are deeply rooted in the hibakusha experience. Let’s all make their appeal and demand our own, spread them throughout the world, and pass them on to the next generation.

Policymakers, I ask you especially to respect your differences and make good-faith efforts to overcome them. To this end, it is vital that you deepen your awareness of the inhumanity of nuclear weapons, consider the perspectives of other countries, and recognize your duty to build a world where all thrive together.

Civil society fully understands that nuclear weapons are useless for national security. The dangers involved in controlling nuclear materials are widely understood. Today, a single bomb can wield thousands of times the destructive power of the bombs dropped 72 years ago. Any use of such weapons would plunge the entire world into hell, the user as well as the enemy. Humankind must never commit such an act. Thus, we can accurately say that possessing nuclear weapons means nothing more than spending enormous sums of money to endanger all humanity.

Peace Memorial Park is now drawing over 1.7 million visitors a year from around the world, but I want even more visitors to see the realities of the bombing and listen to survivor testimony. I want them to understand what happened under the mushroom cloud, take to heart the survivors’ desire to eliminate nuclear weapons and broaden the circle of empathy to the entire world. In particular, I want more youthful visitors expanding the circle of friendship as ambassadors for nuclear abolition. I assure you that Hiroshima will continue to bring people together for these purposes and inspire them to take action.

Mayors for Peace, led by Hiroshima, now comprises over 7,400 city members around the world. We work within civil society to create an environment that helps policymakers move beyond national borders to act in good faith and conscience for the abolition of nuclear weapons.

In July, when 122 United Nations members, not including the nuclear-weapon and nuclear-umbrella states, adopted the Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, they demonstrated their unequivocal determination to achieve abolition. Given this development, the governments of all countries must now strive to advance further toward a nuclear-weapon-free world.

The Japanese Constitution states, “We, the Japanese people, pledge our national honor to accomplish these high ideals and purposes with all our resources.” Therefore, I call especially on the Japanese government to manifest the pacifism in our constitution by doing everything in its power to bridge the gap between the nuclear-weapon and non-nuclear-weapon states, thereby facilitating the ratification of the Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons. I further demand more compassionate government assistance to the hibakusha, whose average age is now over 81, and to the many others also suffering mentally and physically from the effects of radiation, along with expansion of the “black rain areas.”

We offer heartfelt prayers for the repose of the atomic bomb victims and pledge to work with the people of the world to do all in our power to bring lasting peace and free ourselves from the absolute evil that is nuclear weapons.

August 6, 2017

MATSUI Kazumi
Mayor
The City of Hiroshima


(参考資料)

平和宣言について

広島市が世界最初の原子爆弾の惨禍を経験し、2年目の昭和22年(1947年)に、永遠の平和を確立しようという広島市民の願いを全世界の人々に伝え、世界的行事の一つにまで発展させたいと念願して、平和祭が行われることになりました。

平和祭は、同年8月5日から3日間行われましたが、6日には現在の平和記念公園の広場で式典が開かれ、この中で初めての平和宣言が浜井信三市長によって読み上げられました。この時の平和宣言は、

「この恐るべき兵器は恒久平和の必然性と真実性を確認せしめる「思想革命」を招来せしめた。すなわちこれによって原子力をもって争う世界戦争は人類の破滅と文明の終末を意味するという真実を世界の人々に明白に認識せしめたからである。これこそ絶対平和の創造であり、新しい人生と世界の誕生を物語るものでなくてはならない」
「今われわれが為すべきことは全身全霊をあげて平和への道を邁進し、もって新しい文明へのさきがけとなることでなければならない。
この地上より戦争の恐怖と罪悪とを抹殺して真実の平和を確立しよう。
ここに平和塔の下、われわれはかくのごとく平和を宣言する」

と述べています。

このように戦争を否定し、平和を求める広島市民の心の底からの叫びが、一つの形となって表れました。

平和宣言は、広島市長が毎年8月6日の平和記念式典において発表していますが、その表現や内容には、その時代が反映されています。原水爆禁止の文字が平和宣言に初めて現れたのは、第1回原水爆禁止世界大会が開かれた翌年、昭和31年(1956年)の渡辺忠雄市長のときでした。また、戦後26年目の昭和46年(1971年)、山田節男市長は「次の世代に戦争と平和の意義を正しく継承するための平和教育」を平和宣言に明示し、昭和57年(1982年)荒木武市長は、6月の第2回国連軍縮特別総会で提唱した平和のための世界的な都市連帯の呼びかけを、その年の平和宣言に取り入れました。今日では、この都市連帯の輪は、平和首長会議として世界に大きく広がっています。

平成3年(1991年)平岡敬市長は、「日本はかつての植民地支配や戦争で、アジア・太平洋地域の人々に、大きな苦しみと悲しみを与えた。私たちは、そのことを申し訳なく思う」と述べました。また、平成8年(1996年)の平和宣言では、包括的核実験禁止条約の合意が「核実験の全面禁止につながること」への期待を表明するとともに、被爆の実相を語り継ぎ、広く伝えていくために「平和文化の創造」と「被爆資料の集大成」を求めました。平成9年度の平和宣言では、核兵器のない世界を実現するために、日本政府に対して「「核の傘」に頼らない安全保障体制構築への努力」を求めると同時に、私たちが言語・宗教・習俗などの違いをこえて世界の人々と率直な対話を進めることの必要性を訴えました。

平成11年(1999年)秋葉忠利市長は、被爆者が原爆の惨苦や絶望を乗り越え、ひたむきに核兵器の廃絶を訴え続けてきた足跡を称えた上で、核兵器は人類滅亡を引き起こす絶対悪であるとの真実に基づき、核兵器を廃絶する強い意志を持つことが何よりも大切であることを訴えました。また、宣言の歴史で初めて「です・ます調」の文体を用いました。平成12年(2000年)の平和宣言では、戦争と科学技術の世紀であった20世紀を振り返り、憎しみや暴力の連鎖を断ち「和解」への道を拓くよう訴え、平成13年(2001年)には、21世紀最初の平和宣言として、21世紀を核兵器のない「平和と人道の世紀」にするため、和解や人道を重視する勇気を持つよう訴えました。平成16年(2004年)の平和宣言では、被爆後75年目に当る2020年までに地球上から全ての核兵器を廃絶するために、「核兵器廃絶のための緊急行動」への支持を訴えました。

平成23年(2011年)、松井一實市長は、被爆者の高齢化が進み体験を語れる方が少なくなる中、ヒロシマの原点である被爆体験や平和への思いを次世代、そして世界の人々に共有してもらうことが重要であると考え、初めて、被爆者から頂いた被爆体験談を直接盛り込みました。また、平成27年(2015年)からは、為政者をはじめとする世界の人々に対し、核兵器廃絶に取り組む際の原動力となる信念を固めるために必要な行動理念を提示しています。

広島・長崎の悲惨な体験を再び世界の人々が経験することのないよう、核兵器をこの地上からなくし、いつまでも続く平和な世界を確立しようと、これからも平和宣言は訴え続けていきます。

(出典)広島市HP→該当箇所アドレスhttp://www.city.hiroshima.lg.jp/www/contents/1110537278566/