政経の世界№4―丸山和也・〝奴隷〟発言から議会制民主主義まで・3

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(5)議会制民主主義の確立を目指して

今回は、六点の問題提起を行う。ただし、本格的な解説は第一の解説にとどめる。
ともかく、本質は、行動する議会の確立である。特に、政策立案を議会の手に取り戻すことである。そのためには以下六点の改革が不可欠である。
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 第一が、「国民代表の原理」自体の一部修正の検討である。
国民代表の原理とは、国民が理性があると考える人を選び、選ばれた人が全国民にとってこれが良いと判断したならば、選んだ人の利益と合致しない形で行動してよいという原理である。これは公約違反をしても、罰も罰金もとられず、議員辞職もする必要もないことを意味する。
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これに関する逸話(いつわ)を一つ記す。
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人間的魅力にあふれ、私がいつも褒(ほ)めている野田佳彦元総理は消費税値上げ法案をだした。その時に、私は言った。
「君、正気か。私は消費税値上げには反対であるが、その議論はおいておく。だが、今、消費税を値上げしたならば民主党の一人負けになるぞ」、と、無駄でもテレビに向かって叫んだときがあった。
「どうしてもやるならば衆議院を解散して、国民の信を問うてからやれ。そうしないと、消費税をあげないと言って選挙で当選し、その公約を無視して法案を提出したならば、三党合意があるといっても、国民心情から言って、民主党だけが責任をおわされることになる。どうしても、消費税値上げ法案をだしたいならば、法案提出前に衆議院を解散すべきである。そして選挙で、消費税値上げをしたいと明白に言って当選してからにすべきである。そのときには、消費税値上げの責任は三党(自公民)で負うことになる」、と。
簡単に言えば、選挙をせずに消費税をあげると、国民の心情は、野田君など民主党の一部だけが選挙公約違反をしたという印象を持つからである。
それでも、野田君は言った。
「民主党がどうなっても構いません。どうしてもやらなければならないのです」、と。
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既に述べたように、私が大学院時代(早大政治学研究科時代)に、野田佳彦氏は早大政経学部の学生であり、彼の前期試験・後期試験監督を私がしていた。そこで、口は出すまいと思っていたが、消費税問題と尖閣国有化問題では驚いて口を出さざるを得なかった。
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「なぜ、消費税を値上げすると、民主党の一人負けなのか」。
それは、野田氏が立候補した際に、「消費税値上げよりも先にすることがある。シロアリ(官僚主導体制)退治が先です、と言って当選した」=重要な選挙公約である。そこで、前回の衆議院選挙時に選挙で言ったことを新たな衆議院選挙で訂正しない間に、消費税値上げ法案をだせば公約違反となり、国民心情を逆なですることになるからである。
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だが、大きな公約違反をしても、憲法51条から、議員には罪も賠償責任も問えず、議員辞職もする必要はない。これを国民代表の原理という。その対局にあるのが、命令委任制度である。
具体的には一部命令委任制度(mandate)を導入する時期にきている。これについてのみ、最後に解説をする。
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第二が、猟官(りょうかん)主義を一部取り入れることの検討である。
前回の民主党政権がぶつかった壁が官僚の壁であった。この壁での敗北が今日の民主党の低迷に繋(つな)がったと言っても過言ではない。
国家官僚制度を地方自治体と比較してはならない。膨大な情報の独占、他方における政党の未熟さ、そこから官僚の見えぬ形のストライキに遭(あ)えば議員・政党はお手上げとなる。私は、民主党はこの壁で敗北したと考えている。長妻氏などは、いや菅直人元総理大臣ですら、この壁で立ち往生したように思えてならなかった。
そこで猟官主義{別名、情実任用制、党人任用制(とうじんにんようせい)とも言われる}を一部制度的に取り入れることを検討する時期にきている。
簡単に言えば、民主党が政権をとれば、国家官僚の局長以上などに限定して、民主党の政策を反映する人に入れ替えるといってもよい。自民党、公明党、共産党、維新の会などが政権をとっても同様である。
危険を伴うが、現状では、前回の民主党政権の如(ごと)く、官僚の壁にぶつかり、民主党が借りてきた猫の如くになった状況が今後も起こりうると思われるからである。万一、民主党政権が数十年続けば、今度は自民党が政権をとったときに同一の壁にぶつかるであろう。詳細は別の機会に論じることにする。
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 第三が、政策立案にIT(情報技術)を導入するためのインフラ整備を国が行うことである。例えば、
①国民が何を望んでいるかを、瞬時にインタネット経由で問い、国民から回答を得る。
②それをパソコンに打ち込むと、世界の取り組み事例と法律などの一覧がでる。
③それを立法化するときに、他の法律関連との整合性の一覧がでる。
④以下略、
これらのデータベースを作成しておき、法律の立法化を議員が独自にできるシステムの確立である。
⑤それらをインタネット経由でガラス張りにするなどなど。
要するに、過去と異なり新たな時代・IT時代の議員の必要性であり、それは官僚による主要な情報の独占からの離脱の道でもある。
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第四が、政策立案関連の企業及び、大学の研究所の創立を促すことである
商売として政策立案関連企業や研究所を創設させ、国会議員、地方議員、各政党が利用できるようにすることである。利用資金は原則として国民からの小口中心のカンパとする。これにより、官僚が法案をつくり、官僚がその法案を実施するという形で形骸化された権力分立の崩壊から権力分立の本来への姿へと転換を図る必要がある。
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第五が、マスコミ関連である。その一提案として、(4){=政経の世界№3}を記した。
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第六が、地方の村に見られる事実上の団体自治から住民自治への転換、さらに地方自治の真の改革など、多数があるが、今回は省略する。
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今回は、第一の解説だけを以下、少しだけおこなう。(他の項目の解説は別の機会に譲る。)
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上記の第一でとりあげた国民代表と命令委任代表の意味を簡単に解説する。今、アメリカ大統領予備選挙が行われている。アメリカの民主党をとりあげてみよう。
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全米各州で党員集会や予備選挙を行い、一般党員の代わりに候補を指名する「代議員」を選ぶ。英語はDelegateとなっており、実質的意味は代議員というよりも、「大統領候補人を選ぶ人」である今、アメリカで行われているのは大統領候補者を選ぶ人を選ぶ選挙である。日本でいえば、自民党総裁とか民主党代表を選ぶ人を選ぶ選挙や党員集会である
以下、朝日新聞デジタル2016年2月22日から引用する。
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《民主党と共和党でも違うし、州(しゅう)によっても異なるが、大きく言えば、代議員には2種類(しゅるい)ある。各州の党員らの意思(いし)を反映(はんえい)した「一般(いっぱん)代議員」のほか、党幹部(とうかんぶ)や州知事(しゅうちじ)、連邦議会議員(れんぽうぎかいぎいん)ら党の実力者(じつりょくしゃ)で構成(こうせい)する「特別(とくべつ)代議員」がいる。民主党の場合(ばあい)は、今回(こんかい)の党大会の代議員は合計(ごうけい)4763人で、うち一般代議員が85%、特別代議員が15%だ。一般代議員の獲得数で負けても特別代議員数で圧倒(あっとう)すれば、逆転(ぎゃくてん)できるんだ。一方、共和党は特別代議員の割合(わりあい)が6・8%と少ない。
また、一般代議員は予備選挙や党員集会の結果(けっか)に従(したが)って投票しなくてはいけないが、特別代議員は、当初(とうしょ)は特定(とくてい)の候補への支持(しじ)を表明(ひょうめい)していても、途中(とちゅう)で支持を変えて、党大会で別の候補に投票することもできる。》
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この特別代議員に該当するものが、国民代表の原理である。他方、一般代議員に該当するものを政治学の専門用語でいえば命令委任代表(mandate)という。日本の場合には、この特別代議員に該当するシステムのみから成り立っている。
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簡単に言えば、国民代表とは、東京一区から選ばれても、「東京一区のためではなく、全国民のためによい」と議員が判断したように行動すればよい。自分を選んだ東京一区の利害に反していても罷免(ひめん)はされない。もちろん、「全国民のためと言いながら、誰のためにもならぬ」発言をしても罷免とはならない。日本国憲法第51条 「【議員の発言、表決の無責任】 両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない」の規定がこれに該当する。この考えは、エドモンド・バークなどの理論を基に構築された発想である。
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他方、命令委任代表とは、自分を選挙した人たちの意思に拘束され、約束違反があれば罷免されたり、時には法的責任を負ったりする代表(正確には代理人)となる。例えば、消費税反対と言って当選した場合に、消費税値上げに賛成票を投じた場合には罷免されたり、ときには違約金を請求されたりする代表(代理人)である。沖縄問題を考えればこの制度の利点も分かるであろう。
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日本の場合には国会も地方議会も、首長もすべて前者のみ、即(すなわ)ち国民代表の原理のみから成り立っている。そのため、無責任発言をしたり、公約違反をしたりしても問題ない制度となっている。政党の党議拘束と言っても、消費税値上法案の如(ごと)く、政党自体の公約違反が見受けられる現状がある。
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私は、アメリカ大統領予備選挙の民主党の如くに、地方議会の一部に命令委任型代表を取り入れる時期に来ているのではないかと思うそうすれば、地方の声はもろに地方議会に反映されることになるからである。国会レベルでは、私は護憲派のため、今は論じない。これに関しての問題提起とすれば小林直樹氏の文献(※9)が面白いと思う。

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こうして(第一から第六などを通じて)、〝目立ちがる〟ための言動から、国民にとって不可欠な法律の提案・制定作業のスペシャリストに議員を変革していくことである
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文字通り、法律は国会が作成し、行政(官僚などを含む行政機関)は法律を実行・執行し、違反などを裁判所が裁くことが可能となる。現時点では、法の作成も執行も事実上官僚が行っている。
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※参考用文献。
※8)佐藤武嗣筆「(いちからわかる!)候補者を決める代議員、2種類あるの?」(朝日新聞デジタル2016年2月22日所収)
※9)小林直樹「現代国家と議会制」(『法学セミナー増刊・総合特集シリーズ2・現代議会政治』、日本評論社、1977年所収)
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以下、(6)付録・「先日(2016年2月27日)、私を挑発するためという暗示への返答」(「政経の世界№5―丸山和也・〝奴隷〟発言から議会制民主主義」・付録)に続く。次回の政経の世界№5は、政経の世界のみか「徒然(つれづれ)なるままに」や「夢か現(うつつ)か」とも近い内容となる。そこで、一般の人には読みやすい内容となるであろう。
また、丸山発言と差別問題に戻ることになる。

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(追記、2016年3月12日15:05Twitterに以下記載)
Twitter:16-051-8.「国民代表の原理」とは政治学用語であり、必ずしも国民の代表を意味するものではない。自分を選んだ人の意向と反しても構わないという原理。公約違反をしてもペナルティなしでもある。それでは選挙のときに何を言ってもよい(となる)。そこで一部命令委任制度の併用の検討時期にきている。