●TVA・ルーズベルトの世界を振り返る。
――新国際経済・政治秩序、新産業革命を、ニューディルからグリーンディールへ。
「This is America」第6回「TVA・ルーズベルトの世界を振り返る」{写真物語・絆の間収録(2015年6月9日)}のものを、政経原稿整理上の関係で公式Blogにも収録。
私は、2013年の訪中を前にして、以下のことを叫び続けてきた。
「新国政経済秩序を、新国際政治秩序を、新型産業革命を……世界連邦への道筋を……」
2015年2月27日~3月3日の訪米の際も同様であった。特に、フーバーダムを見て尚更(なおさら)その意を強くした。フーバーダムはニューディール政策どころか、ケインズ理論とは無関係との見解については、最後の※注2に二点のみ記しておく。
ここで、現在の日本などが置かれている状況と経済政策に関する感想の骨子のみを以下記す。
(A)不況だからこそ、雇用を増大せよ=ケインズ理論の骨子。
そうすれば、※注1の①~④の循環が起こる。その一つがTVAなどのダム政策であった。
簡単に図示すれば1)労働者にお金を回す→2)消費拡大→3)企業が儲(もう)かる→4)生産拡大→5)雇用の増大……である。
(B)だが、この政策には副作用があった。インフレである。
そこで、出発点を3)からにしようとする考えが登場する。理論上同一ではないか、と。レーガンなどの供給サイドの経済学である。
(C)違いがある。企業から救済か、労働者から救済かという。
同じならば、弱者の労働者から救済すれば良いではないか、となる。
それではインフレが……と言うが、今の日本では供給サイドの経済学の上で、公共投資を始めとするお金のばらまき政策を行っている。ただし、本来インフレとなるところを、お金を地下に埋め(国債残高を増加させ)て、経済が順調とみせかけているだけとなる。いずれ、このツケは不況下のインフレ、即(すなわ)ちスタグフレーションという形で日本を襲う危険性が大きい。
(D)しかも、供給サイドの経済学の前提には、敗者復活戦が構築されていなければならない。
日本は米国と異なり年齢差別がまかり通っているように、その整備はされていない。おまけに、供給サイドの経済学を主張するならば、企業献金は全面禁止としなければならない。そうでなければ事実上の賄賂(わいろ)政治でしかない。これが現況である。
(E)今回は写真物語なので、難解な解説はここまでとする。ただ、どうすべきかについて簡単な主張をしておく。
世界的な新産業革命を!
時代はそれを望んでいる。
私が提唱する新産業革命とは、(再生可能な)新型エネルギー、新型IT革命、新型乗り物(乗り物はスポーツ以外では全て自動操縦となり、高齢者・障害者ほど乗れる物になること)、新型医療(特に医療工学。例えば医療工学が発達すれば、既に某論文で記したが眼球がなくても物は見えるはず)、知識集約型農業・漁業・林業……などの総合からなる。今回はごく一部しか掲載していない。
同時に、これらを実現するためのルールづくりを。それが新国際政治・経済秩序構築である。これからの社会は、「我が国が」ではなく、「世界全体で共存して成長していく時代」に入っている。
前日、アメリカの西部の大地でみた不毛の地は、将来太陽光発電などを中心とする大拠点となるであろう。そのときに、人は都会から地価が安く、自然の美しい田舎へと逆流するであろう。
産業としての自然エネルギーもある。買い物はITを駆使した通販がある。移動は自動操縦で、空・海と川・陸を動く各種乗り物があり、不自由はしない……、と。
そのときに、百年以上に亘(わた)る人類が当面している課題、過剰生産克服と「創意し、工夫する労働者の創設」とのジレンマの解決にも繋がるであろう。
ルーズベルトはダムを起爆剤の一つとした。今度は、自然活用・再生活用を起爆剤としなければならない。アメリカが昔唱(とな)えた、ニューディルに代わる、グリーンディール政策の実現でもあろう。
アメリカの西部の大地で新産業革命の確信をし、そしてラスベガスへの帰路で古典型ニューディル政策の残骸・ダムを見た。
(F)アメリカ滞在最後の夜、雨のラスベガスで光るものを見た。人類は賭けをした。まさに、そのとき、ラスベガスは光輝いた。この世の光である。
次回のThis is the America第7回「光るラスベガス」に御期待を。
次回は、写真の質も今回よりは相当高くなっています。
■(※注1)ケインズ理論の具現化→ニューディル政策
ケインズが唱(とな)えた理論を小学校の子でも理解できるように記せばこうである。
膨大な金塊(きんかい)を山に埋め山から掘り出せ、そしてそれを繰り返せ、そうすれば景気は回復する。
即(すなわ)ち、金塊を山に埋めて山から掘り出すには膨大な人を雇わねばならない。膨大な人を雇えば、雇用拡大となり、雇われた人の収入が増大する。すると、彼らは様々な商品を購入し出す。その結果、様々な商品を生産している多数の企業が儲(もう)かりだす。企業が儲(もう)かれば、企業は雇用を拡大する。すると、ますます失業は減り労働者の賃金が増大する。これにより、彼らが更にものを購入し出す、である。
図示すれば、①金塊を埋めて金塊を掘り出す→②そのための人を雇う→③雇われた人は賃金が入るので商品を購入→④様々な商品を生産している企業が儲(もう)かる→⑤様々な企業で雇用が拡大する→以下②~⑤の循環で景気は回復する。
そして、この①に該当するのが、ルーズベルトのニューディール政策ではTVA(ダム建設など)である。これは必ずしもうまく行かなかったが、その後、第二次世界大戦に参戦し、戦争のための物作りが①に該当し、景気がある程度回復した。これは戦後、日本で何度も実施された経済理論であり、戦前では高橋是清などが実施した理論に類似する。
だが、このカンフル剤の前提には、不況時には物価が下落していなければならない。このカンフル剤を行えば、副作用としてインフレか国の借金が増大するためである。
1985年のプラザ合意後もこのカンフル剤が頻繁に打たれたが、1985年から1990年にかけて実体のないバブル時代を迎え、しかもそれが1990年後半に崩壊したことにより日本経済の奇形構造が現(あらわ)れていた。
私に言わせれば当時の不況はデフレ状況ではなくスタグフレーションの奇形状態が本質であった。一般にスタグフレーションとはインフレと不況の結合であるが、今日(こんにち)はインフレ状態を膨大な国家・地方自治体の赤字に置き換えたのである。
2003年3月には国の借金703兆円、地方の長期債務約200兆円、特殊法人が発行する債券を国が保証し、隠れ借金と言われる政府保証債務が58兆円(「朝日新聞2004年6月26日)で合計約1000兆円である{2007年3月末では国の借金のみで834兆円である(「朝日新聞」2007年6月26日)}。ただし、日本の資産問題を忘却し、政府などの過剰な消費税導入CMに騙(だま)されぬこと(*4)。
拙著『親方日の丸―第二部・官と民の論理』(kindle版)第7章第2節より抜粋。
●
※注2。フーバーダムとケインズ革命。
ケインズが『雇用・利子および貨幣の一般理論』を発表したのは1936年である。
ルーズベルトのニューディル政策は主として1933年からである。だから、ケインズ理論とニューディール政策は無関係という指摘があった。しかし、ルーズベルト大統領の「四つの自由」演説(1941年)の中には、ケインズについいての知識があったとしか思えない内容がでてくる。ここでは専門的になるため詳細な解説は省略する。
ケインズ理論の骨子部分は1923年の『貨幣改革論』などで紹介されていたことだけを指摘するに留(とど)めておく。ルーズベルト若しくはその側近は、ケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』発表前の段階で、ケインズ理論を研究していたことだけを再度指摘しておく。
フーバーダムにいたっては、1931年に着工し、1936年に竣工(しゅんこう)したので、ケインズ理論とは無関係という説については、フーヴァー大統領{Herbert Clark Hoover, 1874~1964年:大統領就任期間[1929年3月4日~1933年3月4日]}がケインズを読んでいたかどうかの研究はまだしていない。
しかし、時代の要請から、同一・同類理論が出てくる運命にあった。例えば、この前後の日本の高橋是清を思い出せばよい。要するに、ケインズを読んでいたかどうかは別として、内容とすればケインズ理論の中の一端となる政策であった。
ただし、私はダム政策は是認してはいない。時代の流れからもはや時代遅れとも考えている。現時点では有効需要の創設はダムではなく、福祉や平和の創造、あるいは私が唱えている新産業革命などから創設されるべきと考えている。